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グローバルコストの考え方に基づいた栄養管理
  ~栄養部門だけのコストにとらわれ過ぎていませんか?~

医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院 栄養部の皆さん

 手稲渓仁会病院は、札幌西部、石狩、後志エリアにおける基幹病院としての役割を担っており、「地域医療支援病院」「救命救急センター」「DPC*特定病院群」等の指定医療機関として、質の高い急性期総合医療、専門医療を提供しています。全670床の各病棟には管理栄養士が配属され、入院患者の栄養管理に加えて、外来での栄養指導も積極的に取り組むことで継続的な栄養サポートを実現しています。
 こうした栄養管理の中核を担う栄養部では、「栄養管理はあらゆる治療の基盤である」という理念のもと、食単価等にとらわれ過ぎない、『患者さん中心の栄養管理』に取り組んでいます。今回は、栄養部部長の田中智美先生に、栄養管理におけるグローバルコストの考え方とその実践についてお話を伺いました。

※グローバルコスト…特定の部門・部署ではなく、経営的観点に基づいて施設全体を総合的に捉えた場合のコスト
* DPC(Diagnosis Procedure Combination)… 診断群分類包括評価

PROFILE

医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院 栄養部部長  田中智美先生

グローバルコストの考え方

 医療機関におけるコストのうち、栄養部が直接関わるものとしては厨房での食材費や栄養剤費、給食委託費等のほか、病棟等で栄養管理に従事する管理栄養士の人件費等があります(1)。これらのコストを入院時食事療養費や栄養関連の診療報酬加算のみで賄おうとすると、「この栄養補助食品を使いたいけれどコスト的に難しい」「人件費の関係で、これ以上は管理栄養士を増やせない」といった発想になってしまいます。

 食材や栄養補助食品等のコストは患者さんに回復していただく上で必要な経費ですし、臨床での栄養管理も患者さんのために行うものです。栄養部内だけではなく、病院全体の収支(グローバルコスト)で考えることが重要で、DPC*対象病院であればDPC*係数や入院期間に応じた定額点数、手術の件数や規模、在院日数、薬剤の使用状況、医療機器の更新や保守費用等について、ある程度は把握しておく必要があります。

                                                                        

図1.jpg 図1 グローバスコストの考え方

*NST(Nutrition Support Team)… 栄養サポートチーム

ERAS®導入を通じた病院の収益性アップ

ERAS®と食事療養費

 当院のようなDPC*対象病院の場合、患者さんのお食事のコストは食事療養費として請求できますが、栄養輸液等の薬剤費については病院の持ち出しになります。このため、周術期における絶食期間をできるだけ短縮し、早期に経口摂取を開始することは、患者さんご自身だけでなく病院にとってのメリットにも繋がります。それを実践する上で有用となるツールの一例がERAS®*です。ERAS®は術後の早期回復を目指した周術期管理プロトコルですが、その項目の中には術前の絶食期間の見直しや術前炭水化物負荷、術後早期の経口摂取開始等、栄養管理に関するものも多く含まれます。

 2は、当院の結腸がん周術期における食事提供回数の変化をERAS®導入前後で比較したものです。ERAS®導入後、絶食回数は減少し、従来よりも食事療養費を9食分多く算定できるようになりました。当院の手術件数から考えると、仮に食材費が1食当り300円かかったとしても、ERAS®のプロトコルを実践することによって年間1,200万円以上の増収に繋がる計算になります。

ERAS®Enhanced Recovery After Surgery)… 術後回復促進プロトコル

図2.jpg 図2 ERAS®と食事療養費

ERAS®と特定入院期間

 DPC*では患者さんの在院日数に関して「特定入院期間Ⅰ~Ⅲ」という3段階の区分が設定されており、各区分に応じて1日あたりの定額点数が異なります。3は特定入院期間の内訳をERAS®導入前後で比較したものですが、最も定額点数の高い入院期間Ⅰの割合が増え、入院期間ⅡとⅢは減少しているのが分かります。早期経口摂取に向けた取り組みを通じて、病床回転率の改善に寄与できたことは、経営的観点から見ても大きなインパクトがあったと考えます。

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 図3 ERAS®と特定入院期間

MCTオイルを活用した癌周術期の栄養管理

MCTオイルを活用した食道癌周術期の栄養管理

 当院の栄養管理の一例として、食道癌の術後34日目から経管栄養を開始し、嚥下造影検査の結果に問題がなければ、速やかに経管栄養と嚥下調整食の併用に切り替えています。嚥下調整食は水分を加えてミキサーにかけたりすることからボリュームが多くなりやすく、患者さんの病態特性上、全量摂取することが困難な場合もあります。このため、当院では開始当初の嚥下調整食の量を通常の半量としていますが、MCT*オイルを活用することで、少量でも栄養価を維持できるように工夫しています(4)。

 以上のような取り組みによって、術後早期から消化管の運動を適切に促すことは、患者さんの早期回復・早期退院に繋がり、ひいては病院の収益アップにも寄与します。そうしたグローバルコストの視点で考えれば、MCTオイル等の使用に関わるコストは問題にならない額だと考えます。

MCTMedium Chain Triglyceride)…中鎖脂肪酸油

表1.jpg

 図4 MCTオイルを活用した食道癌周術期の栄養管理

コスト シミュレーション(例)

不足分の栄養を補う際のコスト比較(例)

 患者さんの栄養管理状況等に関して転院先へ申し送りを行っていると、当院で提供している栄養補助食品はコスト的な理由から使えないと言われるケースがしばしばあります。しかし、栄養補助食品は本当に高いのでしょうか?

1は、1日当たりの必要量に対してエネルギーが1,040kcal、たんぱく質が44g不足している患者さんに栄養補充を行った場合のコストについてシミュレーションしたものです。当院で使用している栄養補助食品・薬剤を基に試算すると、不足分を栄養補助食品とMCTオイルで補う場合(A)は食材費として750円、点滴で補う場合(B)は薬剤費として1,050円かかる計算になります。栄養補助食品で750円というと、施設によってはそれだけで1日分の食単価に相当する場合もあるかもしれません。ただ、栄養部で750円の栄養補助食品を出さない代わりに、薬剤として1,050円の総合栄養輸液を出すとすると、病院全体としては約300円のマイナスになるということを認識する必要があります。

 また、前項で述べた嚥下調整食のエネルギーアップに関しても、MCTオイルの使用に伴って1食あたりの食材費は2030円増えるかもしれませんが、点滴で不足分を補った場合のコストはそれ以上になります。消化管の運動を適切に促しながら栄養状態の改善を図ることは患者さんの感染予防に繋がり、抗菌薬をはじめとする薬剤費の低減にも寄与します。このようにグローバルコストの視点で捉えると、栄養補助食品のコストは決して高くないと考えます。

図4.jpg 表1 不足分の栄養を補う際のコスト比較(例)

まとめ

患者さん本意の積極的な栄養管理の実践においては、病院全体の収支(グローバルコスト)で考えることが重要

早期経口摂取を通じた栄養状態の改善は、患者さんの早期回復に繋がるだけでなく、病床回転率の改善による経営的なメリットにも繋がる

MCTオイル等の栄養補助食品のコストは、それらを使用しない場合の薬剤費等のコストと比較して考えれば、決して高くはないと考える

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