製鉄記念八幡病院様は、設立から 120年以上の歴史をもち、動脈硬化性疾患の急性期を中心とした医療を提供。
北九州市の中でも高齢化率の高い地域に在り、地域包括ケア病棟や緩和ケア病棟などを有し、地域連携にも尽力。
本号では、疾患の治癒や回復、食事療法が必要な患者さん向けの栄養・食事管理について取材を行った。
PROFILE
社会医療法人 製鉄記念八幡病院 栄養管理部
栄養管理部の業務は、疾患の治癒や回復を目的とした食事の提供や、食事療法が必要な患者さんへの栄養指導、多職種が協働で行うNST など多岐にわたります。特に当院が注力しているのは、糖尿病患者を対象とした2週間の教育入院です。昭和60年頃から現在まで続いているシステムで、栄養士をはじめ、医師・看護師・検査技師・薬剤師・理学療法士など多職種と連携し、糖尿病に関する講義を毎日行うことで、患者さん自身に自分の疾患を十分に理解していただくことを目的としています。栄養管理部としては、病院食を教材に食材の選び方や料理のポイント、計量の仕方についての指導や実生活で取り組めそうなことの提案など、患者さんに合った細やかなサポートを行うことで、退院後の行動変容に繋げるよう尽力しています。
また、スタッフ間のチーム力も当院の魅力のひとつです。NST においても、それぞれの専門性や意見を尊重し合うことで、チーム一丸となって目の前にいる患者さんにより適した医療・ケアが提供できるよう努めています。
課長 増田 圭子様(写真左)
瀬戸 瑠璃様(写真右)
北九州市では近年、患者さんの高齢化の進行に伴い、嚥下機能や食欲低下、低栄養と見受けられる患者さんも増加しています。特にNST で、嚥下機能に低下がみられる患者さんの喫食率低下とエネルギー不足が問題となりました。そこで、当院では嚥下調整食を必要とする方にMCT をオイル配合したお粥を提供することにを決定し、食事の量を増やさず、エネルギーのベースアップを実現しました。さらに、退院後の嚥下調整食づくりの方法をご家族に伝える調理実習でも、お粥にMCT オイル を配合していることを伝え、使い方やMCT オイルについての説明を行うことで自宅療養時の栄養・食事管理に役立てていただけるよう対応しています。近年では、訪問栄養指導を行う調剤薬局在籍の管理栄養士・ケアマネージャー・訪問看護師・訪問介護員などと連携することも増えてきました。退院後も適切な栄養・食事管理を在宅介護で実践いただけるよう、今後も尽力していきたいと思います。
当院は、2021年6月からMCTオイルの使用を開始しました。病院全体として、入院患者が高齢化していることを鑑み、言語聴覚士を増員し、咀嚼・嚥下の評価を充実させるという動きがあり、その一環で嚥下調整食の見直しを行ったことが、MCT オイル 導入のきっかけとなりました。当時は、長年提供してきた刻み食からソフト食に切り替えたところでしたが、言語聴覚士の参画によって、刻み食の必要性が再認識されると同時に、飲み込みやすい物性に改良することが新たな課題となりました。そこで、どのような刻み食の提供が適切かの検討と試作を重ねた結果、これまでの刻み食に“あん”をかけ、“とろみ” をつけた「刻みとろみ食」という、新たな嚥下調整食の開発に至りました。咀嚼の面ではこれまでの刻み食と同様の形状ですが、嚥下の面ではとろみがつくことで飲み込みやすい設計です。誤嚥リスクの低減も期待され、多職種からの評価も得ることができました。
しかし、刻みとろみ食を含む嚥下調整食は、総じて喫食率が低いことが次なる課題となりました。そこで注目したのが“MCT オイル” でした。私自身、前院でエネルギーの充足が難しい腎臓病食でMCT をシチューやコーンスープに使用していました。また、熊本リハビリテーション病院の熊リハパワーライス® での活用実例も参考にMCT オイル 導入を決定し、活用方法の検討を行うこととなりました。MCT 導入の最大のメリットは、少量でエネルギーアップができることだと考えています。嚥下咀嚼能力の低下によって喫食量が落ちてしまいがちな患者さんにとって、食事量を増やすことなく、エネルギーのベースアップができる点は非常に有益だと思います。
係長 井本 太 様
MCT オイル の導入にあたり、決めなくてはならないことはたくさんありました。まずは、どのメニューに使用するかという点です。副食は嗜好によって喫食量にばらつきがみられることを踏まえ、刻みとろみ食・ミキサー食の主食であるお粥に使用することとしました。次に検討したのは、MCT オイルの使用量です。1 食分の提供量である200g のお粥に、MCTオイル50kcal アップの約5.5g、100kcal アップの約11g を加えて、味・食べやすさ・色味などを比較しました。検討の際は、多職種の方々にも試食に協力いただきました。結果、どの評価項目においても両者に違いがみられなかったことから、よりエネルギーを多く摂取できる「お粥:MCT=200g:約11g」の割合を採用しました。
さらに患者さんの喫食状況を鑑みて、お粥自体の提供量を150g に減らし、MCT オイル の使用量は8.3g に設定しました。MCT オイル 由来のエネルギーは、1食あたり約75kcal、1日あたりでは約225kcal です。MCT オイル の使用によって、当院のお粥は1食あたりの提供量は150g と少量にも関わらず173kcal ものエネルギーが摂れるようになりました。
給食・調理業務は委託給食会社へお願いしています。MCT オイル 導入にあたり、何のメニューにどのくらい使用するかの検討段階から参画いただき、多職種が参集する会議や試食会などでも調理現場ならではの発言をしていただきました。特にオペレーションを検討する上では、委託給食会社の協力が非常に大きかったです。委託給食会社とは今年で7年目のお付き合いとなります。病院側の私たちから、MCT オイル の導入のような給食・調理に関する要望をあげることも多々ありますが、 “まずは試してみる” という姿勢で協力いただいています。その上で、「ここまではできたけれど、この点は対応が難しい」「こういった方法で実施するのはどうか」など一緒に話し合い、より現実的な方法を模索しています。このように、お互いが歩み寄り協力し合える関係であることが、安全でおいしく、より質の高い食事を提供することに繋がると思います。委託給食会社の皆様に、前向きに給食・調理業務に従事いただけることに、日々感謝しています。
現在、当院では乳化剤入りのMCT オイル を使用しています。メーカーの営業担当者さんから、当時使用していたものよりも高機能のMCT オイル があることを紹介いただき、切り替えを決めました。既存品との大きな違いは乳化剤が配合されたことで、お粥と混ざりやすくなった点と、それに伴い油浮きが少なくなった点です。以前は、稀に油浮きを嫌う患者さんがいるとの声もありましたが、切り替え後は見た目・食感共に通常のお粥とその差が分からない仕上がりになりました。患者さんからも食べづらいなどの声はなく、ごく自然に召し上がっていただけている様子です。また、乳化剤入りのMCT オイル の価格は既存のものと同額で価格の心配もなく、使い方も既存のものと同様で調理のオペレーションの変更の必要もありませんでした。当院にとって、乳化剤入りのMCTオイルへの切り替えはメリットしかなかったように思います。
井門 裕暁 様
現在、MCT オイル 配合のお粥を召し上がっている患者さんは20~30名程度です。MCT オイル 配合のお粥の喫食率は約87%のため、1日3食の提供でお粥から450kcal/ 日ものエネルギーを確保できている計算になります。以前のお粥は200g/ 約130kcal で、67%程度の喫食率だったため、お粥からは260kcal/ 日程度のエネルギーしか摂取できていませんでした。MCT オイル の配合によってお粥の提供量が減ったことが喫食率の改善を促し、さらに1日あたり190kcal ものエネルギーアップに繋がりました。
MCT オイル 配合のお粥の提供について、特別患者さん自身にお伝えするといった機会は設けていません。ですが、特にMCT オイル 配合による違和感はなく、通常の食事と同様に召し上がっていただけているというのが実態かと思います。これまで、嗜好による喫食量の低下や味や風味などに関するご意見をいただいたことはありません。また、私たち栄養管理部の意見としても「お粥本来の味・色などに大差がない」「油っぽさなどの食感の面での違和感もない」「通常と変わらない美味しいお粥」など、好評です。高エネルギーな食品を無理なく自然に召し上がっていただけるという点は、MCT オイル を使用する大きな利点だと思います。
各食材ごとに、刻んだりミキサーにかけるなどの調理を行うことで、見た目(外観) にも配慮したお食事を提供しています!
栄養成分( 各種1食分)
・エネルギー …… 525kcal
・たんぱく質……… 25.0g
・脂質……………… 27.0g
・炭水化物………… 58.0g
・塩分………………… 2.3g
・MCT( 粥に使用) …8.3g
メニュー名
・とろみMCT 粥/ ミキサーMCT 粥(左下)
・エビ入りシュウマイ、付け合わせ(右下)
・豆腐の野菜あんかけ(真ん中)
・ごま和え(左上)
・ねりうめ(上段)
・ゼリー/ 果物(右上)
当院では、退院し自宅療養に移られる方の中で嚥下調整食を必要とする患者さんのご家族を対象に「ミキサー食調理実習」を実施しています。本実習は、患者さんが病院でどのような食事を召し上がっていたのかをご家族に知ってもらい、実際に“ミキサーにかける”、“とろみをつける” などといった調理実習を通じて、自宅での食事作りをサポートする取り組みです。実習の中では、病院で提供しているお粥にMCT オイルを配合していることもお伝えするようにしています。ご家族が高齢者であるケースも多々あるため、MCT オイルをご説明する際は、ご理解いただきやすいよう「MCT オイルは無味無臭で透明感のある油で、他の油よりも早くエネルギーになることが特徴」だと説明するようにしています。また、購入できるお店や価格のほか、レシピや使用例、使い方をまとめたリーフレットなどもお渡しすることで、ご家族にご理解いただくよう努めています。エネルギー摂取の方法として、とても手軽に始められるため、今後もこうした機会の際にはMCT を紹介できればと考えています。
〒805-8508 福岡県北九州市八幡東区春の町一丁目1番1号
28診療科の急性期病床に加え、地域包括ケア病棟や緩和ケア病棟を有しており、心血管病やがんを中心とした診療を行っている。近年では、糖尿病センターの開設や心臓カテーテル検査室の増設、救急医療の提供体制の強化のほか、肺炎・心房細動・心不全・骨折など高齢者に多くみられる疾患の診療や認知症の早期診断のための「もの忘れ外来」の設置など、ニーズに合った診療の提供を開始。最良の医療を提供すべく尽力されている。
※本記事は製鉄記念八幡病院様に取材させていただいた内容を基に制作しています。
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