急性期においては、院内における不適切な安静や禁食、不適切な栄養管理、医原性疾患が原因の医原性サルコペニアが問題となっています。サルコペニアは、加齢や低活動、低栄養、疾患が原因であり、転倒骨折や嚥下障害、栄養障害などの発生に影響を与えるとされています。
急性期においては、経口摂取困難な重症患者がサルコペニアの高リスク者となります。その予防においては、24~48時間以内に行う経腸栄養が推奨されています。ただし、循環動態不安定な場合は経腸栄養を開始すべきではなく、血圧低下や腹部膨満などの腸管虚血サインがあった場合は経腸栄養を中止すべきとされています。
また、重症患者では過剰栄養のリスクに注意が必要であり、初期目標として25kcal/kg、血糖180mg/dl以下での調整が推奨されています。静脈栄養はあまり推奨されていません。また、肺炎入院後3日以内に理学療法を開始すると死亡率が低下することが知られており、起立運動は嚥下障害の改善に有効であることが報告されています。肺炎の場合、﹁とりあえず絶食﹂の指示が出がちですが、この指示が誤嚥性肺炎の予後悪化につながることも報告されています。
回復期リハ施設では、40~60%が低栄養であり、約50%にサルコペニアが認められると報告されています。疾患別では、肺炎後廃用症候群、脳血管疾患、大腿部近位部骨折などにサルコペニアが多く認められ、入院中に体重減少が増加することが報告されています。結果、ADLと嚥下機能が低下し、退院が遠のきます。
回復期リハ病棟では、9割以上が経口摂取で栄養補給していますが、その多くに摂取率低下がみられ、必要エネルギーを充足できていません。そのため、その補完から栄養補助食品や栄養補助食品を用いた薬剤の服用(Med-Pass)、静脈栄養との併用が必要となります。
当院ではこのほか、回復期リハ患者の栄養付加の方法の1つとして、中鎖脂肪酸(日清MCTオイル・日清MCTパウダー)やプロテインパウダーをご飯に添加する﹁熊リハパワーライス(R)を活用しています。この方法には、エネルギーを糖質に頼らず、物性や量・味に影響を与えないという特長があります。実際、この方法で栄養管理を行った患者はそうでない患者と比較し、体重増加・FIMスコア改善・入院期間短縮などの良好なアウトカムが得られています(図1)。
2020年、当院NSTは288件に対し介入しました。回復期リハ病棟ではNST加算の算定不可ですので、算定件数は172件となります。NST発足からこの3年間における介入理由の上位3項目は、嚥下障害・摂取量低下・体重減少であり、これらの介入患者の多くに食べられない、食べたくないという症状が認められます。いずれの患者も少量しか摂取できないため、少量高エネルギーの栄養補助食品が不可欠となります。
栄養補助食品には、食事に添加する日清MCTオイルや日清MCTパウダー、プロテインパウダー、食事に付加するドリンクやゼリーなどがありますが、当院では、患者の摂取状況を評価したうえでドリンクやゼリーなどを食事に付加するとともに、必要エネルギーの充足が難しい患者に対しては、熊リハパワーライス(R)や日清MCTオイル、日清MCTパウダーなどを食事に添加しています。
最近ではそれでも必要エネルギー量の充足が難しい患者もいることから、さらに少量高エネルギーにできる方法がないかと検討していたところ、日清オイリオグループから新しいMCTであるエネクイックを紹介されました。これは同社独自の技術で油脂を結晶化したもので、液状の食品に混ぜるだけでムース状にすることが可能です。油っぽさを感じにくいため、簡単に少量高エネルギー食を作成できます。たとえば、生クリームにエネクイックと砂糖、バニラペーストを加えて冷やせば、簡単に高エネルギーなアイス風ムースができますし、カルピス(R)に加えてもカルピス(R)風味の高エネルギームースができます。耐熱保形性に優れるため、25℃以下であれば形状がほとんど変わらないこともメリットです。
トーストやパンケーキなどに載せる、あるいはクレープのクリームとして使用してもおいしく摂取できますし、高たんぱく質のヨーグルトに混ぜてみたところ、コクが出て油っぽさも感じず、NSTメンバーにもおいしいと好評でした。
MCTもオイルやパウダー、結晶性と3つの形状が揃いましたが、いずれも無味無臭であり、手軽にエネルギーアップ可能なことがメリットです。オイルはお粥やおかずにかけるだけ、あるいは混ぜるだけと手軽であり汎用性に優れます。パウダーは分離しにくく、ミキサー食やカレーやシチューなどの味の濃い料理に向いています。結晶性MCTのエネクイックは、物性調整ができ、オイルやパウダーよりもさらにさっぱりとしています。温かいレシピでは溶けてしまうので、デザートやアイス風レシピなどの冷たいレシピに適しています(表1)。
入院中の状況に応じた細やかな食事変更は、脳卒中後の栄養状態、身体機能、嚥下障害の改善と関連しています。効果的な栄養補助食品の使用は栄養改善の効果的なアイテムですが、その使用にあたっては多職種による検討が必要です。少量高エネルギー食の提供に欠かせないアイテムであるMCTも多職種と検討しながら、最適なタイプを使い分けることが重要と考えます。
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